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2009年02月 に書いたもの

2009年02月21日

「恋しくて」~全力、恋する乙女~
ハワード・ドゥイッチ監督

恋しくて」(1987年

監督:ハワード・ドゥイッチ
製作:ジョン・ヒューズ
製作総指揮:マイケル・チニック
脚本:ジョン・ヒューズ
撮影:ジャン・キーサー
音楽:スティーヴン・ハギュー / ジョン・ミューサー

出演:
エリック・ストルツ
メアリー・スチュアート・マスターソン
リー・トンプソン
クレイグ・シェイファー
ジョン・アシュトン
イライアス・コティーズ
モリー・ヘイガン
キャンディス・キャメロン
パメラ・アンダーソン
チャイナ・フィリップス
ローラ・リー・ヒューズ


【あらすじ】
学園の花形アマンダ(リー・トンプソン)に惹かれるキース(エリック・ストルツ)は、幼馴染のワッツ(メアリー・スチュアート・マスターソン)の気持ちに気づかない。徹底的に鈍感なキースを健気にも慕うワッツ。果たして恋の行方は・・・。


【コメント-全力、恋する乙女-】

数年前、帰省した折に小中学校の同級生と飲みに行った。
幾人かの仲の良い男子連中とはこれまでも顔を合わせる機会があったが、その時は中学の卒業以来、実に十五年ぶりに会う女子たちとの飲み会であった。
各自、結婚したり子供がいたり、ちゃんと社会生活を送っていたり、随分と立派に見えた。
今は何をしてるかなどを話した後は当然、「あん時誰が好きやった?」という方向へと話題は移る。

だんだんと彼女たちのボルテージは上がり、当時の交換日記の話へと突入した。
女子同士で日記を回覧していたのだそうである。
なるほど、メールやブログなどなかった時代、そう言えば女子達は授業中にも小さく折りたたんだ手紙を渡し合ったり、小まめに意思伝達を怠らない様子であったと思い出した。
やたらとファンシーな便箋に色とりどりのペンを駆使して、丸文字や挿絵が踊る手紙を、うちにも姉がいたこともあって、一度ならず目にしたことがある。
うちのタマ知りませんか?けろけろけろっぴター坊、などの文具は恐ろしいほど流行っていて、最早男子の文房具にもそれらのキャラクターが散見されるほどであった。

交換日記の話題となったところで、僕は、ふと疑問に思うことがあった。
果たして日記というからには毎日書くものなのだろうけど、一体何をそんなに書くことがあったというのだろうか。

「その日記には、どんなことを書いたん?」
僕の問いかけに彼女達は一瞬きょとんとし、そんなこと聞くまでもないだろうという表情を浮かべた後、にこやかな笑顔になって
「そんなん、好きな男の子のこと書くに決まっとるやん」と笑った。
僕にとってこれは驚愕の事実であった。
小学校三年生にして、女子の頭の中は好きな人のことで充満していたということで、道理で恋占いや恋のジンクスに躍起になっていたはずである。
男子の頭の中は、サッカー、マンガ、ファミコン、野球、ラジコン、何して遊ぶ?、なんか腹へったわ、秘孔突かせろや、誰か屁こいたやろ、とかそんなところが関の山である。
交換日記には、今日なんとか君と目が合ったとか目が合わなかったとか、そんなことを書いて報告し合っていたのだそうである。
僕に言わせれば、そんな女子たちは、おしゃまとかおませとかいう域を超えて、ほとんどエロなのではないかと思う。
なんとエロい女子。これでは、かないっこないと思った。

映画「恋しくて」の三角関係は、80年代青春恋愛映画のまさしく王道といった展開で進む。
いかにもな内容に手が出ず、全く子供だった僕はこういった作品は敬遠し、公開当時87年は12歳ですか、高校大学に至ってもスルーし、ようやっと20代も後半の頃に、思い切ってレンタルしたのである。

映画冒頭、80年代のあの音質、曲調のロックが流れ、カメラはドラムを叩いているショートカットの美少女を捉える。
これが、かのメアリー・スチュアート・マスターソンである。
我々の世代にとってのボーイッシュ発祥の地。キュートさたるや尋常ではない。
幼馴染みのエリック・ストルツは、彼女の恋心に全く気がつかないことで、観客をやきもきさせる。

圧巻は映画中盤での「キスの練習」シーンである。
「キスしたことあんのかよ」「ねえよ」「じゃあ私を相手にやってみなよ」「おお、やってみるよ」
とまあ、そんな展開で二人がキスのお稽古をしようということになり、この場面において既に30歳を前にしていた大の大人である僕はモゾモゾと座りなおし、頭に血が昇るのを抑え切れず、前傾姿勢になって「すっげー場面」と呟かずにはおれなかった。
キスの練習だなんて、そんな桁外れなことをよくもまあ思いついたなと、脚本ジョン・ヒューズの偉大さに感心したり、呆れたり。

この映画がすごいのは、青春の青々とした青臭い様子を、画面全体に漲らせているところにある。
キスの練習をしてもなお、エリック・ストルツはM・S・マスターソンの気持ちにてんで気がつかない。
そんな馬鹿なと言いつつも、いやしかし、それが思春期の恋なのかもしらん、と妙に納得させる映画である。
ましてや、交換日記に好きな人のことを書き綴るような破廉恥を女子陣が平然とやってのけ、男子陣はやはりそんなことはつゆ知らずに日々を遊んで過ごしていた事実を思うと、エリック・ストルツの鈍感さを他人事として笑うのは、まるで自分だけ女心の理解者を気取っているようで、これは慎まなくてはならない。
エリック・ストルツは映画終盤に入っても、ハイスクールの一番人気リー・トンプソンに惹かれ続け、さてこれは一体どうなるのやら、エンドマークまで目が離せなかった。

この映画を見たことを、友人らに語ったとき、真っ先に「キスの練習」場面のことを挙げて、あれは一体なんなんですかと尋ねると、そこにいた女性の友人は
「当時ビデオで借りて、あの場面何回も巻き戻して見たよ」と言い放った。

こっちは大人になってから一度見ただけでもビビりまくったというのに、かないっこないわけですよ。



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