「長屋紳士録」 ~お婆ちゃんは怖い~
小津安二郎監督
監督: 小津安二郎
製作: 久保光三
脚本: 池田忠雄/小津安二郎
撮影: 厚田雄春
美術: 浜田辰雄
衣裳: 斎藤耐三
編集: 杉原よ志
音楽: 斎藤一郎
出演:
飯田蝶子 / おたね
青木富廣 / 幸平
小沢栄太郎 / 父親
吉川満子 / きく女
河村黎吉 / 為吉
三村秀子 / ゆき子
笠智衆 / 田代
坂本武 / 喜八
高松栄子 / とめ
長船フジヨ / しげ子
河賀祐一 / 平ちゃん
谷よしの / おかみさん
殿山泰司 / 写真師
西村青児 / 柏屋
【おはなし】
長屋に暮らすおたねは、一人の戦争孤児を引き取ることになる。
【コメントーお婆ちゃんは怖いー】
寝転がって見始めた。 映画というお高級なお文化のお陰様で、受験期にも関わらず僕は大手を振ってテレビの前に寝転がることができた。 戦後まもなくの東京下町の長屋が舞台。 飯田蝶子演じる主人公おたねが登場したとき、思わず僕は起き上がってしまった。 うちは両親が共働きだったため、幼少期は祖母と一緒の布団で寝ていた。 祖母は背後で繕いものをしているが、試しに振り向いて見れば案の定ハの字眉毛のしかめ面である。 一晩だけ、と言い残し半ば無理矢理に少年を置いて行く笠智衆。 これぞ、明治生まれのお婆ちゃん像。ちょっとこわいのだ。 この時点で、長屋の連中にとって子供は邪魔な「モノ」でしかない。 僕が笑いながら見ていると、後ろで新聞紙をたたむ音がした。 翌朝、少年はオネショをしてしまう。 緻密に計算されているに違いない一つ一つのカットが、丁寧に過不足なく積み上げられていく。 そういえば、先ほどから台所の方からの物音がしなくなっていた。 しかめ面のおたねが、少年を愛するようになる過程は、それほど魅力的だった。 小津監督の残した作品は百本近くある。 「あーあ。うち泣いたよ」 |