11/09/09 新国立劇場『朱雀家の滅亡』『イロアセル』『天守物語』3作品合同製作発表レポ
2011年9月9日(金)
「シリーズ[美×劇]-滅びゆくものに託した美意識-」
『朱雀家の滅亡』『イロアセル』『天守物語』3作品合同製作発表レポ
新国立劇場2011/2012シーズンの演劇ラインナップ
「シリーズ[美×劇]-滅びゆくものに託した美意識-」
3作品・合同製作発表会にお邪魔してまいりました!
新国立劇場「シリーズ[美×劇]-滅びゆくものに託した美意識-」は、
1917年の泉鏡花「天守物語」、1967年の三島由紀夫「朱雀家の滅亡」、
そして2011年の倉持裕書き下ろし「イロアセル」と、
およそ1世紀に渡る時代の3作品を上演。
日本ならではの“滅びの美学”をバラエティ豊かに魅せる試み、とのこと。
まずはトップバッター、9月20日から上演される『朱雀家の滅亡』チームのみなさま。
左から演出家の
芸術監督である宮田慶子さん自らが演出を手掛ける『朱雀家の滅亡』は
三島由紀夫晩年の傑作戯曲。
天皇家に使える名門侯爵家の当主・朱雀経隆を中心に、
忠誠心とは、国家・大義とは何なのかというテーマが投げかけられます。
渋くてかっこいいお声で質問に応える主演の國村隼さん。
三島戯曲について
「リアリスティックに心情だけを表現するのであればこんな華美な言葉いらんやろ、
というくらい“流麗なセリフ”がたくさんある。
稽古を重ねて行くとひとつひとつが装飾ではなく言霊というか・・
言葉、音がすごくパワーを持ってくる。
これをちゃんとお客さんに届けられたら、単にリアルな人間の愛憎劇だけでなく、
形而上的なテーマがいっぱい詰まっているこの作品を、ちゃんと届けることが出来るかなと思って、
なんとかその域に達することができればと稽古しています。期待して下さい!」
と、非常に真摯にコメントを下さった國村隼さん。
関西弁まじりのダンディな魅力に、おけぴ取材班は完全ノックアウトされてしまいました。
そして國村さん演じる朱雀家当主の内縁の妻であり
表向きは女中の“おれい”を演じる香寿たつきさん。
香寿たつきさんの凛とした美しさ!
「稽古は難しい。簡単に(出演を)受けてよかったのかと思うほど苦しく・・。
でもこの苦しみを観る方の喜びに変えられれば。女性の強さも見せつつ美しさも見せて行きたい」
と意気込みを語ります。
「こういう役を演じられる年齢になったんだなあ」としみじみされる場面も。
当主の弟役・近藤芳正さん(後列真ん中)
「僕はよそに婿養子に出たので気軽に見ている役柄です。朱雀家の皆さんは大変だなあ」
このコメントで会場は笑いの渦に。
出演者の皆さんの雰囲気がとてもよく、お稽古が充実している様子が伝わります!
その近藤さん、「(脚本が難しくて)2回、3回と読んで行くと楽しみが増えて行く本。
役者の仕事というのは、お客さんに1回観ただけで(その内容を)理解していただくこと。
三島の言葉、音の美しさを伝えたい」と真面目なコメントもされていました!
『朱雀家の滅亡』は9/20~10/10まで新国立劇場・小劇場にて。
出演は國村隼さん、香寿たつきさん、近藤芳正さんの他、木村了さん、柴本幸さん。
太平洋戦争末期の激動の時代。世代と年齢が異なる様々な価値観がぶつかり合い、
各々が葛藤する様子が5人の登場人物が形作る緊張感ある“五角形”で描かれます。
過去にこの作品を手掛けたことのある宮田慶子さんの新演出にも注目です!
そして10月18日に初日を迎える新作『イロアセル』チーム。
左から作者の倉持裕さん、島田歌穂さん、藤井隆さん、剣幸さん、演出の鵜山仁さん。
この日がお稽古初日!
新進若手脚本・演出家として注目される倉持裕さんによる書き下ろし作品。
話す言葉に固有の“色”があり、
そのため住人は発言に慎重になり嘘をつけないというある島を舞台に、
“無色透明”な言葉を話す囚人と看守が
島にやって来たことから巻き起こるドラマを描いた寓話的な作品。
新国立劇場の前・芸術監督である鵜山仁さんが演出を手掛けます。
主演の藤井隆さん。とっても緊張されている様子で、
この日までにセリフを全部覚えてこようとしたが無理だったと明かし、
「島田さん、剣さんのお2人が本当に優しくて。
お2人に甘えながら頑張りたいと思います」
「甘え」発言を受けてのお二人の反応♪
(手前は作者の倉持裕さん)
“前科のある女”を演じる島田歌穂さん。
「本当に謎だらけの物語。今日は作家さんがいるのでいろいろと質問して・・。
これからその謎をひもときながら、より一層謎を深めていければ」と、
作品に対するまっすぐな気持ちを。
剣幸さんが演じるのは“町長”。
「どういうことが美なのかということを探りながら、
皆さまといっしょに面白い、新しいものを作れたらいいなと思っております」
お二人ともこれから稽古が始まるとのことで、頭の中に謎がいっぱい!というご様子。
作者の倉持さんはこの後、お二人から質問攻めにあったことと思います!
新作『イロアセル』は10月18日~11月5日まで新国立劇場・小劇場にて上演。
出演は他にベンガルさん、加藤貴子さん、小嶋尚樹さん、
木下浩之さん、花王おさむさん、高尾祥子さん、松角洋平さん。
「言葉に色がつく」という設定をどのように表現するのか、
鵜山演出とスタッフワークにも期待が高まります。
そして最後にご紹介するのは、この日が初顔合わせという『天守物語』チームのみなさん。
こちらは2週間後に稽古始めということで、まだまだ余裕あり(!?)
左から、若く美しい鷹匠・図書之助を演じる平岡祐太さんと、
図書之助と恋に落ちる妖怪・富姫役の篠井英介さん、
そして富姫の妹分・亀姫役の奥村佳恵さん、演出の白井晃さん。
篠井さんと奥村さんが並ぶだけでそこに妖気が漂うような美しさ!
泉鏡花・円熟期の傑作「天守物語」は妖怪と人間が共生する世界を怪しく描いた恋の物語。
「きっと最後のお姫様役になるから絶対見に来てとお友達に言ってある」
という篠井英介さん。お茶目です♪
そして「今この時期に“歌舞音曲”と言われるものを、
のんきにやっていていいのだろうかという雰囲気がありますが、
私たち文化芸術に関わる者は心も体も尽くしてやっております。
何かのお役に立つと信じて、日本っていいじゃないの、
日本語・日本の心って素敵だわと発見してもらえるような作品にしたい」
と熱く想いを語られました。これには取材班もジーンと感動・・。
が、最後に「白井さんのファンタジーというか悪夢?を体現したいと思います!
夢の中で篠井がぐわーっと出てきた、とか」
と30年来の演劇仲間という白井さんをからかうようなコメント。さすがです。
その白井さんは30年以上の演劇人生の中で今回が初の「和物」挑戦とのこと!
「依頼を受けた時には、何を求められているのかが分からなかった」と笑う白井さん。
「西洋文化の中で育ち、西洋的な世界に憧れて育ってきた私が演出した時に、
どのような日本を発見出来るのか。
自分が今どういう日本人になっているのかを確認する作業でもある」と語りました。
衣裳やセットについても、事細かに書き込まれた泉鏡花のト書きに忠実に、
しかし白井さんなりのイメージで新しいものを作っていきたいとのこと。
今回のシリーズ中、この天守物語だけが中劇場での上演ですから大がかりなセットなどにも期待がかかります♪
憧れていた和物の世界にワクワクしているという奥村さん。
古い日本語や所作など、これまで直面したことのない壁が立ちはだかっていると語り
「とにかく美の化身のような篠井さんをよく観察して、
今持っているこの怖さにあらがっていきたい」と決意表明。
篠井さんと奥村さんが演じる妖怪のお姫様。怪しい美しさを早く舞台で拝見したい!
図書之助役の平岡さんは既に白井さんとのマンツーマン稽古が始まっていて、
“美しい日本語”に四苦八苦されているご様子。
篠井さんと恋に落ちる役柄に「僕どうなっちゃうんだろう」と。
どうなっちゃうんでしょうね!こちらも楽しみです。
泉鏡花の怪しげな世界に、初・和物の白井演出が挑む「天守物語」は
11月5日~11月20日まで新国立劇場・中劇場にて上演。
出演は篠井英介さん、平岡祐太さん、奥村佳恵さん、村岡希美さん、坂元健児さん、
小林勝也さん、田根楽子さん、江波杏子さん、他。
若手からベテランまで揃ったキャストと、白井さんならではの新しい「和」の世界。
新国立劇場に初登場する江波杏子さんの役どころも楽しみです♪
なぜ今「滅びの美学」なのかという質問に
「紙と木で出来た日本の建築のように、
宿命・運命を受けいれて永久に存続するものはないんだという考え方が日本人の中にあったのではないか。
滅びるだけではなく流転して再生していくという意味も込めての滅び、
それを繰り返してきた日本人の強靭さをイメージしている」と語った芸術監督の宮田慶子さん。
この3つの作品を通して、観る者の中にどんな日本人像が伝わるのか。
国立というパブリックな劇場だからこそ取り組める、シーズンを通したシリーズ上演。
この秋の観劇予定がまた1つ、いえ3つ。演劇だからこそ味わえる楽しみが増えた製作発表でありました。
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おけぴ取材班&撮影:mamiko 監修:おけぴ管理人