« 前の記事 | メインページ | 次の記事 »

「オレの心は負けてない 在日朝鮮人「慰安婦」宋神道のたたかい」~笑いは神の道~
安海龍監督

オレの心は負けてない 在日朝鮮人「慰安婦」宋神道のたたかい」(2007年)

監督:安海龍
制作:在日の慰安婦裁判を支える会
プロデューサー:梁澄子
撮影:梁澄子 / 安海龍 / 朴正植
編集:田中藍子
効果編集:金徳奎
効果編集補助:李泰官 / 李ポミ
音楽:張在孝 / 孫晟勲
歌:朴保
ナレーション:渡辺美穂子

出演:
宋神道(ソン・シンド)
在日の慰安婦裁判を支える会


【内容】

16歳から数年間、従軍慰安婦を強要された過去を持つ在日朝鮮人宋神道(ソン・シンド)が、支える会の面々と共に国を相手取って裁判を起こした様子を追ったドキュメンタリー。
宋おばあちゃんの激烈なる個性に引っ張られ、周囲は困惑し、笑い、また感涙する。


【コメントー笑いは神の道ー】

世の中には、凄まじい魅力を持った人がいる。
彼らは市井に紛れ込んでおり、ある時は居酒屋の客かもしれないし、ある時は工事現場のとび職かもしれない。
彼らの面白さは周囲の関心を惹き付け、ちょっとした名物人間として各地に生息している。
彼らのことを、「在野に潜む国の宝」と僕は思っている。
僕はこの十数年間でアルバイトを転々としてきたが、ごくたまに、彼らと出会う機会があった。
宝に接触できた職場は当たりである。

また、在野から世間に登場する例もしばしば見られ、有名なところではタモリが挙げられる。
山下洋輔赤塚不二夫といった面々が彼を引っ張り出したことは有名である。
畑正憲(ムツゴロウさん)もまた、大きな分類では、世に出てきた宝の一人と言えるだろう。

最近だと、夜回り先生こと水谷修氏は、僕の心を鷲掴みにしている。
あの情感に満ちた講演をご覧になったことがおありでしょうか?
僕はテレビで拝見し、釘付けになってしまった。
豊かな表現力と、混じりけなしの真剣さ。
疑問を挟もうとする者がいたとして、その無垢なまでの眼差しに返り討ちにあってしまうことだろう。

そして、僕の知ったる全ての至宝たちから頭ひとつ抜けて、天才的に面白い人物がとあるドキュメンタリー映画に出演している。

先日、東京の東中野にある映画館、ポレポレ東中野のモーニングショーにて鑑賞した、「オレの心は負けてない」の宋神道(ソン・シンド)は、稀代のエンターテイナーだった。
主人公が映画そのものに勝っている様子を、久々に目の当たりにした(※)。
宋さんが映るだけで映画は勢いを増し、俄然おもしろくなる。
映画的技術や構成や音楽などが余計に思えてしまうほどに、宗さんの魅力は圧倒的だった。
宗神道の言動一つ一つに僕は大笑いをさせられ、また涙を禁じ得なかった。

さて、「従軍慰安婦」と聞くと大抵の人は構えてしまう。
戦争の傷痕、取り返しのつかない悲劇、目を背けたい事実、陰鬱、暗澹。
ましてや、国に対して謝罪請求をするとなると、誰しも肩に力が入ってしまうもの。
見ているこちらは、半ば緊張した態度でこの映画に臨んだ。

最初は支える会のメンバーも、それなりの気負いを持って宗さんに接していた様子が伺える。
ところが、当の宗神道はと言えば、ユーモアセンスに長けた東北弁のおばあちゃん。
支える会の面々を、マスコミを、聴衆を、笑わせる笑わせる。
由々しき事態の被害者当人が、こんなにも朗らかで、それでいて熱い人であることに、僕は全く度肝を抜かれた。
マシンガントークと呼ぶにふさわしい口調は、訛りが剥き出しの名調子。
立て板に水を流すがごとく、一体どこからこれだけのスピードで珠玉の言葉が溢れ出てくるのか、まったく感服させられた。

時に辛辣に、時に涙を交えながら、最後は笑いをとりながら、彼女は訴えていた。
従軍慰安婦というものが実在したこと。
二度と戦争なんて起こしてはならないということ。

辛い過去について、神様におすがりしないの?と韓国人のおばさんに温かく言われたのに対し宗神道は猛然と反論する
「神様なんていないよ、そんなもん。いないいない!冗談じゃないよ。いない!」
そんなこと言わないで、と宗さんの手をとった彼女に対し、
「あんた、手冷たいね。血圧低いんだろ?」
と返す。
沸点に達した怒りと、相手を思いやる優しさを同時に発信すれば、周囲は笑わざるを得ない。
宗神道のサービス精神は、常に周りの人々を楽しませる。
それは第一審で敗訴した際にも発揮された。
判決の出た晩、とある和室で支える会のメンバーは控訴するか否かを、宗に問う。
悔しくて落ち込んだ支える会の面々に対し、こともなげに宗神道は言う。
「やったってしょうがないよ」
支える会は、この程度のことでへこたれてはならぬと、抜けた力を奮い起こして宗に控訴を勧める。
「どうせ、また負けるだろ」
宗はまるで諦めた態度を示す。
そうなると、支える会の彼女たちも黙ってはいない。
熱を込めて説得し、勝つまでやらなきゃならないと腰を浮かせる。
と、宗はメンバーの一人を指差す、
「お前、覚悟があんのか?お前には家庭も生活もあって、また裁判できるのか?」
「できる!」
「よし、わかった。それじゃやる!誰が止めたってやる!首が飛んでもやる!あはは!」
こんな具合で宗神道と支える会の面々は東京高裁に乗り込むことになるのである。

宗と出会ってからの15年余りを振り返り、支える会のメンバーは「最初はこの人と一緒にやることに不安があった」「なかなかこちらのことを信用してくれないのが大変だった」といったことを語っていた。
宗はこれまで並の人間には考えられないような過酷な境遇や人の裏切りと格闘してきており、簡単に他人を信じるのが難しかったのだろう、と支える会もこの映画のナレーションもそういうふうに述べていた。
僕はそうは思わなかった。
一見すると、叛骨で凝り固まった猜疑心の強い人物だが、それは相手を慮ってのことだったのではないだろうか。
いつだって人は人を裏切るものだし、大丈夫だと言ってもそうはならなかったりするものだし、宗神道が時折見せる諦観は、適当なことを言って周囲に迷惑をかけたくないという配慮だったと思う。
「(裁判に)勝ったって負けたって、どうなるもんでもない」「国も裁判所も大変だろうけど」という発言の奥には、ただ単に活動を起こして在日慰安婦への保証を認めさせるということではなく、皆で世界平和へ向かおうよという高い視点が感じられる。
マザー・テレサとはまた違ったアプローチで、彼女は平和や他人への優しさを訴えているに違いない。

宗の身体には刀痕がある。日本人の軍人に切りつけられた痕だそうだ。
また腕には「かね子」という慰安婦時代に刻まれた刺青が残っている。
終戦後軍人に誘われて日本へ渡ったが、プイと捨てられてしまう。
一切の荷物も身分を証明するものも持たぬ彼女は、電車から飛び降りて通行人に拾われる。
近所に同じく在日朝鮮人である男性がいるということで、一人暮らしの彼のおうちへ引取られ、煮炊きをして過ごすことになる。
彼が亡くなるまで、夫婦としてではなく恩人としての彼と生活をする。

これだけ聞くと、宗さんの数奇な人生を他人ごととして、過去のことして認識してしまいそうだが、彼女を見ればそんなことは思わない。
戦争は個人に多大なる被害を及ぼすということが分かる。
どこかの誰かにではなく、自分にである。
僕や、僕の家族や、友人が、徹底的に酷い目に遭うのが戦争であるのだと思う。

宗神道さんは、ある種の悟りを開いておられるのではないかと思うが、国や人種や性別など無関係に人として正しく優しく楽しく生きようという姿勢には、その差別を一身に浴びた当事者の彼女ならではの説得力を感じた。
「俺は稼いだ金をみんな飲んで使っちまったからな」と言い放つ顔には、平和を訴えども聖人君子などではないよ、という照れが浮かんでいた。
ほとんど芸人のそれである。
宋神道、神の道を僕も見習いたい。

80歳を超えた今も、元気でいらっしゃるようです。
一人暮らしを続け、飼犬の散歩をしている様子があった。
何しろ彼女は在野に潜む日本の、いや世界の至宝だ。
下手に表へ出すのは勿体ない。

しかし、もし機会があれば、是非講演を聞きに伺いたいと僕は切に願う。
語弊を恐れずに言ってしまうが、これほどのおもしろい人は滅多にいない。
本当に素晴らしかった。


※主人公が映画に勝ってしまうことについてはクリント・イーストウッドに触れた記事で書いてます→こちら(07年6月22日の記事です)



コメント (2)

shimada:

↑上の内容には全く関係なくてごめんなさい。。
お久しぶりです!!
高校の時同じクラスで、授業中あてられた時は幽霊みたいな声を出してた者です。ってそんなんでわかるかなぁ・・。
吉田くん元気してましたかー??(って覚えてるかどうかもわからないまま、質問してます・・)
メールしたかったけど、探せず、、”コメントを投稿”してすみません。。メールするところあったら、教えてください。。(ってまた自分勝手に進んじゃってごめんなさい(^^;)

同級生吉田(ブログ筆者):

shimadaさん

見事にブログ記事とは関係のない
コメント、ありがとうございます。

お久しぶりです。
しっかりと覚えています。
こちらは大変元気にしています。
ご連絡をいただけて、うれしいです。

このブログで利用しているアドレスがあるので
こちらにご連絡くださーい。

bcwdvd@yahoo.co.jp

コメントを投稿

About

●2007年12月28日 18:40に投稿された記事です。

●ひとつ前の投稿は「「トッツィー」~化粧の内側の本音~   シドニー・ポラック監督」です。

●次の投稿は「「シザーハンズ」~世界一哀しき男~ティム・バートン監督」です。

メインページへ戻る。

最近書いたもの

このブログのフィードを取得
[フィードとは]