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1930年代 アーカイブ

2007年07月08日

「街の灯」 ~初笑いシンドローム~  
チャールズ・チャップリン監督

街の灯」(1931

監督: チャールズ・チャップリン
製作: チャールズ・チャップリン
脚本: チャールズ・チャップリン
編集: チャールズ・チャップリン
撮影: ロリー・トザロー/ゴードン・ポロック
作曲: チャールズ・チャップリン
音楽: アルフレッド・ニューマン/チャールズ・チャップリン

出演:
チャールズ・チャップリン
ヴァージニア・チェリル
フローレンス・リー
ハリー・マイアーズ
アラン・ガルシア
ハンク・マン
ジョン・ランド
ヘンリー・バーグマン
アルバート・オースチン


【おはなし】

盲目の花売りの娘にお金持ちと勘違いされた浮浪者のチャップリンは、彼女の目の手術費をなんとか捻出する。

【コメントー初笑いシンドロームー】

92年の大晦日。
高校一年生だった僕は友人宅にいた。
小学校高学年の頃から、家族揃っての年越しには参加しなくなっていた。
友人宅で騒ぎつつ新年を迎え、山へ登って初日の出を拝み、山頂で振舞われるぜんざいを食べて帰宅するのが毎年の恒例だった。

高校生になってから、中学までの友人たちとはあまり会わなくなった。
この年の暮れは、高校の同級生のお家にお邪魔し二人でテレビを見ていた。

ちなみにこの年のNHK紅白歌合戦の司会は、紅組石田ひかり、白組堺正章
出場者の懐かしいところで言うと、LINDBERGリンドバーグ)「恋をしようよ Yeah!Yeah!」。小野正利You're the Only」。森高千里私がオバさんになっても」。GAOサヨナラ」。
SMAP雪が降ってきた)と光GENJIリラの咲くころバルセロナへ)と少年隊太陽のあいつ)が揃って出場している。

さて、年越しの瞬間は何をしようか。
ジャンプして空中で12時を越え、「地球上にいなかった」をやろうか。
もうそんな相談も飽きてしまっていた。
ぐだぐだとテレビを眺めていたのだが、まだ年越しには四十分ほど時間があった。

停滞していた空気を切り替えるためか、友人が一本のビデオを取り出した。
「チャップリン見る?ボクシング」
そのビデオは僕が彼に貸していたものだった。
チャップリンの特集がNHKの衛星映画劇場であった際に録画していた「街の灯」。
同じクラスだった彼に、お薦めの一本として貸していたのだ。

特に僕らが気に入っていたのは、この映画のボクシングの場面。
教室でもこの話題に花が咲いた。
ボクシングの場面とラストシーンのチャップリンの表情は、今でもくっきりと脳裏にこびりついている。

チャップリンは少女の手術代をなんとか稼ぐために、ボクシングの試合に出場したのだ。
しかし、経験もない彼に到底勝ち目などない。
相手の攻撃をかいくぐるチャップリン。

サイレント映画のチャップリンは特に素晴らしい。
こういったボクシングの場面は、彼の最も得意とするところだったのではないだろうか。
人間にあんな動きができるものなのだろうか。
チャップリンと対戦相手とレフェリーの三人が、寸分の狂いもなくボクシングコントを展開する。
入れ替わり立ち替わり、あっちへ逃げこっちへ隠れ。ゴングの紐ともつれ合い、殴り殴られ、息つく暇もないほどに笑わせる。

友人がこの作品を気に入ってくれたことが嬉しく、「見よう見よう」と調子に乗った。
冒頭から観賞し始めて、いよいよボクシングの場面が始まった。
どういうことだろう。
この場面がおかしくて仕方がない。
一人で見たときよりも数倍の威力でもってチャップリンの笑いが襲ってくる。
大晦日の深夜、友人宅、二人での鑑賞、そういった状況が歯止めを失わせたのだろうか。
畳に転げて二人で爆笑した。
顔は真っ赤、お腹が痛くなり、呼吸困難になり、もういい加減に勘弁してくれという二人であったが、ボクシングの場面が終わったらすぐに巻き戻し、また同じものを見て大笑いする。
チャップリンの真顔を見るだけで、もう笑ってしまう。レフェリーが大男だというだけで、もう笑っている。

一頻りこれを繰り返し、ようやく次の場面へ向かうことにしたとき、
「あ!」
と、友人が時計を指差した。
既に時刻は12時25分だった。
笑っている間に年は明けてしまった。

あまりのことに、僕らはまた笑ってしまった。
僕はリモコンを引っ掴み、えーいとばかりに今一度ボクシングの場面に巻き戻した。
もう、再生ボタンを押す前から笑ってしまっていた。

※この作品へのオマージュとしてアキ・カウリスマキ監督は「街のあかり」を撮りました。
「街のあかり」についての記事は→こちら(07年7月23日の記事です)


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