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「用心棒」 ~映画は最高!~      
黒澤明監督

用心棒」(1961

監督: 黒澤明
製作: 田中友幸/菊島隆三
脚本: 黒澤明/菊島隆三
撮影: 宮川一夫
美術: 村木与四郎
音楽: 佐藤勝
照明: 石井長四郎

出演:
三船敏郎
仲代達矢
東野英治郎
司葉子
山田五十鈴
加東大介
河津清三郎
志村喬


【おはなし】

とある宿場町では対立するやくざの抗争が続いている。そこへ一人の素浪人がやって来て、全てを片づけて去って行く。

【コメントー映画は最高!ー】

当時、僕は中学生だった。
1990年かそこらだったと思う。
一人で映画館にも出かけるようになり、どうやら映画には「監督」という役職があるらしいと、ようやく気がついた頃。

「おい、お前用心棒は観たんか?」
父親が不意に質問してきた。
僕は父親に勧められるがままに、ビデオを借りてきたのだった。

中学生の僕にとって映画とはハリウッド映画のことだった。
用心棒」は日本映画であり、白黒映画である。ましてや時代劇でもある。
どれを取っても未知の世界であり、また興味もなかった。

映画の冒頭、一人の男(三船)の背中が現れた。大きな背中だった。
男は首筋をぽりぽり掻いてから、歩き出した。やれやれ、といった風情だ。
今まで聞いたことのないような音楽が、ゴンチャタカッポ♪ゴンチャタカッポ♪と耳に響いてくる。
な、なんだこれは!
未だかつて味わったことのない愉快な映画体験が僕の気分を弾ませる。
歩く男とゴンチャタカッポ♪これだけで心躍るとはどういうことだ。

男はやがて分かれ道に辿り着く。おもむろに一本の枝を拾い、天に目がけて放り投げた。
枝が落下し指し示した道へと彼はゆっくり歩き出す。
彼はきっと無頼だ!世間とは一線を画した男なんだ!わーい!

映画が始まって数分しか経っていないはずだが、僕は夢中になっていた。
息が詰まりそうだった。

男は宿場町にやってくる。人気がない。
不穏な雰囲気の中、一匹の犬が通りの向こうから駆けて来た。
犬はどうやら人間の手首をくわえている。

僕は映画冒頭に興奮し過ぎた自分を少々恥じていた。
古い日本の映画に何をびびっているのだ。きっと粗があるはずだ。
全神経を集中し、画面に近づいてくる手首を凝視した。
作り物然とした手首を期待していた僕は。
…度肝を抜かれた。
残念ながら本物の手首にしか見えなかった。

エンドマークが出るまで、僕はこの映画に完全に身を委ねた。
我を忘れた。
徹頭徹尾、おもしろかった。娯楽の真髄を見た思いがした。
アイデアや工夫に満ちていた。旺盛なサービス精神に圧倒された。
今まで見てきたものや読んできたものの好きな要素の、全てがここにはあった。
これが見たかった。

帰宅した父親に僕は質問した
「この三十郎って人物は誰が考えたん?」
「ええ?オリジナルやろう」
「誰の?」
「黒澤の」

映画監督、黒澤明。認識しました。
世界に名だたる巨匠であると、後に知った。
当時黒澤はまだご存命だった。
彼はもう堕ちた虚像として扱われていた。
背の高いサングラスの老人。
僕はこれ以後しばらくは、黒澤を基準に映画を見ていた気がする。
黒澤より上か下かで判断していた。
世界のクロサワだかなんだか知らないが、僕の黒澤だった。

この映画の三船敏郎の殺陣は凄まじい。
人として生まれて来たからには、この映画の三船の殺陣を見ておいて損はないと思う。
ああ、「用心棒」をまだ観たことのない人達がうらやましい。
僕はもう二度とあの感動を得ることはできないのだから。

父親は得意満面だった。
「おもしろかったやろ?」
「うん。最高やった!」
僕は映画の最高を確かに実感した。


コメント (6)

甲斐五十朗:

はじめまして。
「用心棒」のオープニング・シーン(南アルプス連峰、鳳凰三山を背景に歩く・枝を投げる辻・夏木陽介の百姓親子喧嘩)と、もう一人の用心棒本間先生が裏庭から逃げ出す場面のロケは、最近になって知ったのですが、地元の山梨県甲斐市で行われました。先日 現地を見てきましたが45年程経っているにも係わらず幸い大きな変化はありませんでした。ここに黒澤監督や三船さんが居たんだと思うと感無量でした。

ブログ筆者よしだ:

甲斐五十朗さま
コメントありがとうございます。
私は、川崎三十郎です。

なんと!
あのロケ地に赴かれたとのことで、
とても羨ましい限りです。
まだ当時の名残を残しているとは驚きです。
機会があれば、是非伺ってみます。

荒涼とした土地をのっしのっしと歩く三十郎。
現地でモノマネしてみたいです。

「用心棒」は私にとって重要な映画の一つです。
中学の時に出会って以来、
50回以上見ている作品です。

ロケ地が現存するということは、
黒澤、三船をはじめとする黒澤組の面々が、
本当にあの映画を
ゼロから作りあげたということですね。
勝手に降って湧いたものではなく、
人間が作ったんですね。

私はそのことに
深く感動を覚えます。

大変貴重なロケ地訪問のご報告を
このブログに書いて下さってありがとうございます。
心より御礼申し上げます。
「用心棒」ファンの一員として、
大変誇りに思います。

甲斐五十朗:

川崎三十朗様

返事ありがとうございました。用心棒ロケ地と題して
昨日からブログを始めましたので(下記アドレスです)よろしかったらご覧下さい。(その5)位まで行く予定です。
http://plaza.rakuten.co.jp/1977816

ブログ筆者よしだ:

甲斐五十朗さま

ロケ地レポ、
大変興味深く拝見させていただきました!

なぜか懐かしい思いが胸に去来し、
何度も画像を覗きこんでしまいました。

面影がありますねー!
遠く望む山々の連なりに変化はなく、
あの時と、今と、時間の繋がっていることを感じさせますね。
素晴らしいです。
少なからず私は興奮しています。
感謝の思いでいっぱいです。

「その5」まで、
きっとご連載ください。
首を長くして、お待ち申し上げております。

ブログ筆者川崎三十郎より

ーーーーーーーーーーーーーーーー

(補足説明)
甲斐五十朗さまに対して、
ブログ筆者が川崎三十郎と名乗っているのには理由があります。
「用心棒」で主人公の素浪人は名前を尋ねられ
「(桑畑に目をやり)桑畑…三十郎。もうそろそろ四十郎だが…」
と答えます。
つまり本名を明かさない、名前を持たない男なのです。
僕は現在川崎在住の三十一歳ですので、
川崎三十郎とさせていただきました。
こういった粋な台詞がわんさか詰まった映画なのです。

もしか、このコメントのやり取りを
ご覧になられた方のために
補足説明をさせていただきました。
失礼しました。

甲斐五十朗:

川崎三十郎様 こんばんは。
先ほど(その7)をアップしまして、ひとまず終わりとします。本編が素晴らしいから、こういった違う楽しみ方も出来て嬉しかったです。お楽しみ頂けたでしょうか。
では いずれ又。

ブログ筆者よしだ:

甲斐五十朗さま

全て拝見させていただきました。
充分過ぎるほどに堪能させていただきました。
Googleマップでも「止マレ」を確認しました。

映画と全く同じ撮影地点を
見事に発見されていて、
感激いたしました。

小学館文庫「用心棒スチール写真全348」は
私所持しておりませんので、
早速買おうと思いました。

素晴らしいレポートを本当にありがとうございます。
厚く御礼申し上げます。

「用心棒」はこのブログを始めるにあたって、
まず一番最初に書きたいと思った作品です。
観た者の人生を狂わすほどの魅力魔力に満ちた映画だと思います。
45年の時を経て、なお胸に迫るものがあります。

ロケ地の現在を拝見させていただき、
改めてこの映画に酔った次第です。
ありがとうございました。

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About

●2007年06月13日 17:35に投稿された記事です。

●次の投稿は「「E.T.」 ~映画に見る夢~        スティーブン・スピルバーグ監督」です。

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