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「E.T.」 ~映画に見る夢~        
スティーブン・スピルバーグ監督

E.T.」(1982)

監督: スティーブン・スピルバーグ
製作: スティーブン・スピルバーグ/キャスリーン・ケネディ
脚本: メリッサ・マシスン
撮影: アレン・ダヴィオー
特撮: ILM
特殊効果: カルロ・ランバルディ
音楽: ジョン・ウィリアムズ
 
出演:
ディー・ウォーレス / メアリー
ヘンリー・トーマス / エリオット
ロバート・マクノートン / マイケル
ドリュー・バリモア / ガーティー
ピーター・コヨーテ / キーズ
K・C・マーテル / グレッグ
ショーン・フライ / スティーヴ
トム・ハウエル タイラー
エリカ・エレニアック / エリオットの同級生


【おはなし】

アメリカの郊外に一人の宇宙人(E.T.)が取り残される。少年と出会い、友達となり、やがて宇宙へ帰って行く。

【コメントー映画に見る夢ー】

家族で見に行った。
スピルバーグの新作だということで、両親が映画館に連れて行ってくれたのだ。
劇場は立ち見も出るほどの盛況だった。
公開されたのは82年の冬。僕は小学1年生だった。

E.T.に出会う少年エリオットには、兄と妹がいる。
たまたまうちも姉と兄と僕の三人兄弟だったので親近感を持った。
特にドリュー・バリモア演じる末の妹には、同じ末っ子として他人とは思えぬ身近さを感じた。
とかく上の兄弟たちは、末っ子を子供扱いする。散々ないがしろにしておいて、都合のいい時にだけ命令を下してくる。

映画の途中から僕は真ん中のエリオットのつもりで見ることに切り換えた。
兄の視点になった途端、自由を手に入れたような心地になった。
自分を中心に世界が回っているようだ。兄の優越感を存分に満喫していた。

ところが、映画が進むにつれエリオットには様々な困難が降りかかってくる。
兄というのも楽な稼業ではなかった。率先して冒険する者には、大きなリスクがつきまとう。
しまいには死ぬか生きるかの瀬戸際にまで追い詰められてしまった。
こんなことなら末っ子のままおとなしくしておけばよかった。今更撤回するのも許されない。
僕はE.T.とエリオットと運命を共にする他なかった。

その頃の日本の映画界は大不況の時代に突入しようとしていた。
庶民の娯楽であったはずの映画はいよいよ斜陽の局面を迎え、観客動員は年々下降の一途を辿っていた。
バブルの崩壊に向けて、世の中は胡散臭い空気に満ちていたかもしれない。
日航機の「逆噴射」墜落やホテルニュージャパンの火災はこの年である。
そんな折りに、「E.T.」は大ヒットを記録した。
世の中のことなど微塵も知らない僕であったが、
異様な熱気と白けた空気が混ざったこの映画館で、忘れ難い体験をした。

一度死んだかに思えたE.T.が息を吹きかえしたところから物語は急速に展開する。
少年達は大人の手からE.T.を奪還し脱出した。
彼らの乗る自転車は疾風のように街を滑走する。
先頭を走るのはE.T.を荷籠に乗せた我らがエリオット。
しかし大人も黙ってはいない。車で先回りをし、銃を手に道を完全に封鎖してしまった。
後方からは追っ手、前方には道を塞ぐ車、絶体絶命の土壇場。
不意に!
E.T.の超能力が作用した。少年達の自転車がフワリと浮いて、空高くへと舞い上がる。
大人たちは口を開けてただ見送る。
テーマ曲がこの奇跡を盛り上げる。

期せずして、客席から歓声があがり拍手が起こった。つられて拍手が連鎖した。
映画の魔法に劇場が揺れた。
「わ、わ、わ」
僕は言い知れぬ歓喜を味わった。どっと沸いた拍手で客席とスクリーンとが一緒くたになり、まるで夢の中だった。
当世の憂さを忘れ、客席の誰もがエリオットと同化していたに違いない。

危機を乗り越えた後は、別れが訪れる。
宇宙船が停泊する森。少年たちとE.T.の最後の別れの場面に、僕は胸を詰まらせた。
E.T.との思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。

スピルバーグの恐るべき映画手腕は、感動の場面で本当に観客を感動させるところにあるのではないだろうか。
実をいうとE.T.との交流に、走馬灯のように思いだすほどたくさんのエピソードがあるわけではない。
簡潔で分かりやすく、テーマの凝縮されたシーンが続くため、濃い時間を体験したかのような錯覚に陥るのだ。
2002年に公開された 『E.T. 20周年記念特別版』を見たとき、あまりのストーリテリングのうまさに舌を巻いてしまった。

1年生の僕は、大満足の体で映画館を後にした。外はもう暗かった。
家族で映画を見た後はよく「娘娘(ニャンニャン)」という中華料理店に入った。
床が油でベトベトの通路を抜け二階に上がるとテーブル席があった。
うまくて、べらぼうに安かった。
まだあのお店はあるのだろうか。

今しがた観た映画の感想でも語り合えばいいものを、我々兄弟は肉の争奪戦に躍起となり、いつしかE.T.のことは忘れてしまった。



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●2007年06月14日 11:25に投稿された記事です。

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