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「となりのトトロ」 ~親が薦める宮崎アニメ~
宮崎駿監督

となりのトトロ」(1988

監督: 宮崎駿
製作: 徳間康快
プロデューサー: 原徹
企画: 山下辰巳/尾形英夫
原作: 宮崎駿
脚本: 宮崎駿
撮影: 白井久男/スタジオコスモス
特殊効果: 谷藤薫児
美術: 男鹿和雄
編集: 瀬山武司
作詞: 中川季枝子 「さんぽ」
音楽: 久石譲
歌: 井上あずみ
作・編曲: 久石譲
仕上: 保田道世
制作: スタジオジブリ
 
声の出演:
日高のり子 / サツキ
坂本千夏 / メイ
糸井重里 / とうさん
島本須美 / かあさん
北林谷栄 / ばあちゃん
高木均 / トトロ
丸山裕子 / カンタの母
鷲尾真知子 / 先生
鈴木れい子 / 本家のばあちゃん
広瀬正志 / カンタの父
雨笠利幸 / カンタ
千葉繁 / 草刈り男


【おはなし】

田舎に引っ越してきた親子三人。子供たちはトトロに出会う。

【コメントー親が薦める宮崎アニメー】

アニメが有害であるという信仰は、僕が小学生の頃(82年88年)はまだ根強く残っていた。
親たちは子供にアニメを見せたがらなかった。
その裏には、活字絶対論があったように思う。

活字、つまり本こそ有益である。本を読めば頭が良くなる。
対する漫画は無益である。頭が腐る。
アニメは漫画と似たようなもんだろう。よってアニメは下らない。有毒とみなす。
そういった乱暴な方程式がまかり通っていた気がする。

本当は、有害な書物もあるし、有益な漫画やアニメもある。
そんなことは親たちも知っていたかもしれない。
ただ、当時の僕も含め子供というのは、その中でも有害とされるものばかりを好む傾向にある。
糞尿やエロや肛門やバカげた暴力行為が、皆大好きである。
いや、皆とは言い過ぎかもしれないが、少なくとも僕は嬉々としてそれらに傾倒した。

そこへ持って来てファミコンの登場である。
運動不足、視力の低下、情操教育への悪影響。
こうなってくると、ものの良し悪しを選別する暇はない。
漫画、アニメ、ゲームは一様に排斥対象となっていた。

そんな厳しい状況下に、宮崎駿・高畑勲アニメは健闘していた。
テレビアニメ「世界名作劇場」は、親としても頭から否定するには躊躇があったろう。
世界の名作とは、活字の名著のことである。アニメとはいえ、まともな内容だと言える。

間隙をついて宮崎アニメは劇場版アニメを連発し、その人気を不動のものとしたのが「となりのトトロ」と「火垂るの墓」の二本立てだった。

僕はどちらの作品もテレビ放映になってから鑑賞した。
金曜ロードショーで「となりのトトロ」を見ていると、ご飯を頬張りながら父親がポツリと呟いた。
「こいつらのアニメは、絵がきれいやな」
後になって考えてみると、この一言こそ父親が宮崎アニメに屈伏した瞬間だったのだ。
原作が童話や小説である点、絵がきれいである点。
この二点は親たちがディズニーアニメを奨励する際に用いる言葉である。
既に中学生になっていた僕は、父親の発言を無視したまま、トトロに没頭する。

「となりのトトロ」に描かれる風には、臨場感があった。
田畑や木々の間を駆け巡る風は、かつて確かに僕が体験したものに相違なかった。
夏の夕刻、生暖かい強風を全身に受けながら、一人ゆっくりと帰路についたことを思い出す。

トトロは幼い者にしか見えない。
まず妹のメイが発見し、次いで姉のサツキがバス停で出会う。
小6のサツキですら、かろうじて拝謁を許されたくらいだから、中学生の僕には到底彼らは見えまい。
そう思うだけでしんみりした気分になった。

この映画を見て、自分がどんどん子供から遠ざかっていることを深く認識した。
うまく大人になれるだろうかと不安に思った。

父親は夕飯を食べ終わると、二階の自分の部屋に引っ込んだ。
あまりトトロには興味を示さなかった。
ただ単にやり残した仕事があっただけかもしれない。

自分が親になったとき、果たしてアニメを認めるだろうか。
漫画を読めと言えるだろうか。
仕事があるからといって、途中まで見た映画を切り上げられるだろうか。

映画は終わり、水野晴夫が解説を述べていたので僕はテレビを消した。
今晩はまた特に、夜が静かに感じた。

「となりのトットロ、トットーロ♪」
唐突に、四つ上の姉が奇妙な振り付けで踊りながら居間に入ってきた。
少し不安が溶けた。


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●2007年06月26日 14:59に投稿された記事です。

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