« 前の記事 | メインページ | 次の記事 »

「なまいきシャルロット」 ~盗まれた口元~
クロード・ミレール監督

なまいきシャルロット」(1985/公開1989

監督: クロード・ミレール
脚本: クロード・ミレール /リュック・ベロー/ベルナール・ストラ/ アニー・ミレール
撮影: ドミニク・シャピュイ
音楽: アラン・ジョミイ
 
出演:
シャルロット・ゲンズブール
ジャン・クロード・ブリアリ
ベルナデット・ラフォン
ジャン・フィリップ・エコフェ


【おはなし】

13歳のシャルロットは、天才少女ピアニストのクララに憧れる。

【コメントー盗まれた口元ー】

ファション誌の表紙などで、アヒルのような口をした女性モデルを見かけたことはないだろうか。
唇を薄くすぼめ、アヒルのクチバシのように少し突き出す表情。
雑誌モデルに限らず、女の子の「可愛いらしい表情」の一つとして、もはや市民権を得ているのではないかと思う。
あの口元を発明したのが、他ならぬ僕だということを世間の誰も知らない。

中学三年生(90年)の時、深夜テレビで「なまいきシャルロット」が放映された。
深夜にフランス映画をやるということは、エッチシーンがあるに違いない。
そんな思惑で、家族が寝静まったのを見届けてから、僕は居間に降り立った。

この映画にエロスは出てこない。すぐに気付いたが、テレビを切る気にはならなかった。
はしたない目論見を忘れるほど、シャルロット・ゲンズブールの思春期ぶりが僕を魅了したのだ。

お金持ちの娘であるクララと出会ってからというもの、シャルロットは妹分のルルが邪魔に思えて仕方ない。

綺麗な服を着たクララが羨ましい。
そちらの世界に仲間入りしたいが、どう見ても自分は小汚い田舎娘である。
気付けばチビ眼鏡のルルが引っ付いて離れない。一緒にしないでよと、つい邪険に扱ってしまう。
優越感と劣等感の間でシャルロットは苦悶する。

女優シャルロット・ゲンズブールの父親はセルジュ・ゲンズブール。母親はジェーン・バーキン
フレンチ芸能界のサラブレットにふさわしく、初出演の映画で主演。それも役名が本名。
そんな経緯を知らずとも、僕にはシャルロットが煌めいて見えた。
瑞々しいとはこのことだ。

名場面は、芝生のランチでシャルロットが癇癪を起こすシーン。
何が悪いわけでもない。
怒りと恥ずかしさと情けなさと自信と不安と。
わだかまった思いがついに爆発し母親代わりの家政婦とおチビ眼鏡ルルに当たる。
食べ物をひっくり返し、大声でわめく。
重要なのはその直後。
落ち着きを取り戻したシャルロットが、木陰に座り家政婦にもたれかかっている。
緊張状態でひと暴れしたものだから、じっとり汗をかき、髪の毛が額に張り付く。

分かる。僕にも似たような経験がある。
せっかく家族でお出掛けしたのに、ダダをこねまわして、一人で汗だくになってしまうのだ。
あんなにうまくふてくされた演技ができるものだろうか。
シャルロットという名前が、その後しばらく頭から離れなかった。

不機嫌な少女。
悩ましい表情。
そのポイントは口元にあると僕は思った。
唇が薄く、少し突き出した形。
シャルロット・ゲンズブールの口は生まれつきそうなっているらしい。
鏡で練習し、僕はその表情を会得した。

学校で、度々アヒル口をやってみた。
勿論それがフランスの女優を見本にしているとは口が裂けても言えない。
会話の途中に、パッとやる程度のものだった。

ある日、クラスの友人がそれをやっているのを見かけた。
紛れもない、僕の模倣だ。彼がシャルロットを知るはずがない。
一瞬ドキリとしたが、そのまま指摘もしなかった。
彼の表情があまりにも気持ち悪かったのだ。
もしや自分が思ってるほど、いい案配にはなっていないのかもしれない。
あれはシャルロットがやって初めて成立するものに違いない。
以来、僕はアヒル口を卒業した。

その友人から、どこをどう伝わって現在のようなアヒル人口の増加に至ったのか詳細は知らない。
だが。
まず最初に、少なくとも日本で、あの表情を生活の中に取り入れたのは、おそらく僕だ。
信じて欲しい。
うちの兄が、午後の紅茶を午後ティーと呼んだのは自分が最初だと言い張ってきかない件に関しては、認めなくて構わないので。


コメント (6)

 はじめまして。テオ・アンゲロプロスの映画が
日比谷シャンテで旧作公開されるというので、
検索かけてこちらへ参りました。お邪魔してます。
アンゲロプロスは観たことないのですが参考に
なりました。ちょっと迷ってしまいましたが、
この後「永遠と一日」観に行ってみようかな。。
 前ページに飛んで、「なまいきシャルロット」
についてだったのでうれしかったです。彼女とは
同い歳なのですが、相変わらず魅力的ですよね。
この作品はわたしのバイブル??大好きです。
「ちいさな泥棒」はもっと好きですが、この作品
がフレンチ・ロリータに目覚めさせてくれました。
 とがらせた唇の思い出のお話、かなり面白く
読ませていただきました!わたしも実は・・、
マネしてました!!(爆  バルドー的なぽってり
唇も魅力ですがシャルロット的薄唇も好きです。
 とても参考になるサイトですね、これからも
拝見させていただきますね。がんばってください。

追伸☆おそらく僅差で、あの唇を最初に流行ら
せた方は貴殿と存じます、絶対そうです!(笑

ブログ筆者よしだ:

綿菓子マミリさま

コメントありがとうございます。
「永遠と一日」やるんですね。これは見逃すわけにはまいりません。
前日は早寝して備えたいと思います。

アジア人でさえ、綿菓子さんと僕の二人がやっていたことを鑑みれば、シャルロット・ゲンズブールの口元は、あの頃、同時発生的に世界中で真似されていたのかもしれません。
誰しもがマネしたくなるほどに、魅力的であったと思います。

近頃は更新が滞りがちではあるのですが、
今後とも当ブログをよろしくお願いします。

†綿菓子マミリ:

 さっそくお返事くださり、ありがとうございます!!
ところで、アンゲロプロス監督『永遠と一日』ですが、
シャンテ21周年記念とゆうことで、特別上映なので
日程がかなり限られております。以下、おそらく
よしださまならすばやく検索されてらっしゃるでしょう
が、一応書き出しておきますね。ちなみにわたしは
本日参ります。よしださまとはどこか劇場ですれ違う
こともあったかも、いやこれからあるかも知れませんね!

10月 5日 19:10
10月 7日 13:45
10月 10日 19:10

 ちなみにこれのフライヤーは『12人の怒れる男』
の上映時にいただきました。いい映画でしたよ!

ブログ筆者よしだ:

綿菓子マミリさま
コメントありがとうございます!

「永遠と一日」の日程、しかと確認させていただきました。
アンゲロプロス監督作は、池袋の新文芸坐でも上映するようで、
そちらも気になっています。

そういえば「12人の怒れる男」がリメイクされたんですね。
これも気がかりな作品です。
旧作については、このブログでも書かせていただきましたが、
今回はまた斬新なアレンジも加えてあるようで、
予告編で知って、見なくては思っていたのです。

とむ:

よしだ君、たいへんごぶさた致しております。とむです。
わかるかな? 本名は出せないもんね(笑)
映画とは全然別の世界でたまたま出会い、知り合った訳ですが。よしだ氏の普段の物静かなしゃべり口調と違い内に秘めたる情熱にはいつも感心させられました。
我が家ではケーブルテレビをひいていてたまに短編映画や自主制作映画等をやっているのを見かけるとかみさんと「よしだ君げんきかなぁ~?」と話しています。
かみさんの中ではよしだ君はボウズのままだそうです(笑)
昨夜もたまたまよしだ氏の話が出てネットで検索をした結果。ここにたどり着きました。
頑張っているようですね、陰ながら応援しています。
では、お身体に気を付けて頑張って下さい。


そうそう、バーバリさん、酒々木ご主人も元気ですよ。
残念な話は、地元駅が今度新駅に変わり駅周辺の雰囲気が全然変わってしまいそうです。よしだ氏のように映画は撮れませんがビデオで今の様子を残しておこうと思っています。

ブログ筆者よしだ:

とむさんご無沙汰しております。
コメント、とても嬉しいです。ありがとうございます。
ブログなどいうものをネットに公開していると、思わぬ再会があるんですね。

とむさんを始め、皆様のことはよく思い出します。本当に楽しい日々でした。
あの数ヶ月で僕は多くのことを学びました。
こちらで勝手にそう思っているのですが、僕はあの時更生できたのです。

ちょっと遠くに引っ越してしまったため、なかなか遊びに行けないのですが、また必ず顔を出しに行きます!
バーバリーのパンも買いに行きたい!
僕が引っ越す頃、周辺は既にマンションが林立し始めていましたが、ついに駅前も改装してしまうんですね。
少しずつ過去になって行く僕の二十代です。

美人の奥様は今もお着物をお召しになってらっしゃいますでしょうか。
上映会(あれが初めての上映会でした)にまでいらしていただき、あの時は本当にありがとうございました。
いよいよ繁忙期に入るかと思いますが、お身体にはくれぐれもお気をつけ下さい。

貴社の益々の繁栄をお祈りしています(貴社のファンです、いまでもよく食べます)。

コメントを投稿

About

●2007年06月27日 21:51に投稿された記事です。

●ひとつ前の投稿は「「となりのトトロ」 ~親が薦める宮崎アニメ~宮崎駿監督」です。

●次の投稿は「「永遠と一日」 ~永遠に終わらない~ テオ・アンゲロプロス監督」です。

メインページへ戻る。

最近書いたもの

このブログのフィードを取得
[フィードとは]