« 前の記事 | メインページ | 次の記事 »

「スティング」~自分で自分は騙せない~
ジョージ・ロイ・ヒル監督

スティング」(1973年

監督: ジョージ・ロイ・ヒル
製作: トニー・ビル/マイケル・S・フィリップス/リチャード・D・ザナック/ジュリア・フィリップス
脚本: デヴィッド・S・ウォード
撮影: ロバート・サーティース
特殊効果: アルバート・ホイットロック
音楽: マーヴィン・ハムリッシュ

出演:
ロバート・レッドフォード / ジョニー・フッカー
ポール・ニューマン / ヘンリー・ゴンドルフ
ロバート・ショウ / ドイル・ロネガン
チャールズ・ダーニング / スナイダー刑事
アイリーン・ブレナン
レイ・ウォルストン
サリー・カークランド
チャールズ・ディアコップ
ダナ・エルカー
ディミトラ・アーリス
ロバート・アール・ジョーンズ
エイヴォン・ロング


【おはなし】

1930年代のアメリカ、シカゴのお話。
詐欺師がマフィアの首領をだまそうとする。


【コメントー自分で自分は騙せないー】

小学生の頃、運動が得意な男子はよくモテた。
足が速く、球技にセンスを発揮し、美しく泳ぐ彼は、格好いい。
モテる彼は、なぜか勉強もトップクラスだった。

中学高校ともなれば、運動が苦手な連中は勉学に勤しんだ。
身体も大きくなり、彼らは運動面においてもそこそこの表現ができるようになった。
運動と、勉強を見事両立してみせる彼は、よくモテた。
また、顔立ちが整った彼も色気を発揮し、女子の注目を集めた。

一貫して僕は、運動も勉強も苦手だった。
もとより美貌も持ち合わせてはいない。
そうなると残るは「おもしろい奴」のセクションしかない。
ところが、おもしろい奴に立候補する連中のなんと多いことか。
何も取り柄のない有象無象にとって、最後の砦というわけだ。
またそこに集まる者に限ってつまらなかったりする。
勉学班の奴の方が余っぽどおもしろい。

進退窮まった僕は、腕組みして考えた。
格好いい男には、なろうと思ってなれるもんじゃあない。
いや、仮に努力が結実したとして、それでも最初からモテる男には到底敵わないのが世の常。
ああ、非情。
しかし、それでも無駄なあがきをしてしまったのが現実で、人前でコントを披露したり、顔から火が出そうなことばかりが思い返される。

馬鹿みたく自意識過剰だった思春期に、僕が幾ばくかでも分をわきまえることができたのは、ポール・ニューマンのおかげだったかもしれない。
本物の格好良さに、心底憧れた。
特に「スティング」のポール・ニューマンは格別だった。
この映画が作られた瞬間、彼は世界一格好良かったのではなかったろうか。

映画序盤、若き詐欺師フッカー(ロバート・レッドフォード)が、雷名轟く詐欺師ゴンドルフ(ポール・ニューマン)を訪ねる場面。
殺された仲間の無念を晴らすため、ゴンドルフの力を借りにやって来たのだ。
ところが、最初の印象は最悪だった。
彼は二日酔いのヘベレケ。ヨレヨレのグデグデで、まるで名うての詐欺師には見えない。
人まちがいかと思うほどである。
半信半疑のままロバート・レッドフォードはこれまでの経緯を話し協力を要請する。
ニューヨークの大親分ロネガンが敵だと聞き、ポール・ニューマンは仕事を引き受ける。

さて、改めて登場したポール・ニューマン。
詐欺師ゴンドルフに着替えた彼の見違えるような格好良さ。
30年代の衣装がまた似合う。
スーツの着こなし、帽子を被る角度、姿勢から歩き方から、何もかもが完璧。
二人の大仕事が開始される。

この映画は70年代に撮られたものだが、物語の設定のみならず、映画のテイストも「古き良きアメリカ」を彷彿とさせる。
かつて映画は鮮やかだった。
70年代、古きギャング映画の面白さは、まだ人々の記憶にあったのだと思う。
心から楽しめる痛快な娯楽ギャング映画を、誠心誠意作りあげる。
そんな意気込みに満ちた、気持ちの良い傑作である。
溢れる娯楽の香りは、音楽の効用でもあるのだろう。
ここで鼻歌をお聞かせできないのが残念だが、有名なテーマ曲、その名も「エンターテイナー」は誰しも一度は耳にしたことがあるはず。
軽妙な旋律は、聞くだけで笑顔になってしまう。

二人の詐欺師の「だまし」手口は大胆且つ巧妙で、こちらはハラハラさせられっぱなし。
イカサマががっちり映画に仕組まれ、種明かしのときの快感といったらない。
そもそも映画の観客は、騙されるために映画館へ足を運びに行くようなもので、うまく騙してくれよとお金を支払っているのである。
その要望に満点のサービスで応えた映画「スティング」。

ストーリーの面白さと並走して、役者たちの魅力は最大限に発揮される。
ポール・ニューマンを兄貴分に、ロバート・レッドフォードが詐欺師の何たるかを学んで行く過程も見所である。
なんと映画的な二人組みだろう。並んでいるだけでダンディの見本市がたつ。
かっこイイ!

自分はカッコイイのだと幾度となく思い込ませようとしたが、どうも騙し切れなかった。
映画を見ればヒーローが出てくる。
ポール・ニューマンが見れるなら、それでもう充分ではないか。
もし中学生の僕(88年90年)がこの映画に出会っていなかったら、今頃は「付けてるだけでモテるブレスレット」なんぞに手を出していたかもしれない。


コメントを投稿

About

●2007年07月22日 23:55に投稿された記事です。

●ひとつ前の投稿は「「カリフォルニア・ドールス」~必殺技を持つ女たち~ロバート・アルドリッチ監督」です。

●次の投稿は「「街のあかり」~寒いヘルシンキ、暑い東京~アキ・カウリスマキ監督」です。

メインページへ戻る。

最近書いたもの

このブログのフィードを取得
[フィードとは]