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「夏物語」 ~美人の投票箱~     
エリック・ロメール監督

夏物語」(1996年

監督: エリック・ロメール
製作: フランソワーズ・エチュガレー
脚本: エリック・ロメール
撮影: ディアーヌ・バラティエ
音楽: フィリップ・エデル/セバスチャン・エルムス

出演:
メルヴィル・プポー
アマンダ・ラングレ
オーレリア・ノラン
グウェナウェル・シモン
エイメ・ルフェーヴル
アラン・グェラフ
イヴリン・ラーナ
イヴ・ガラン


【おはなし】

夏のバカンスで海へやって来た青年ガスパールは、優柔不断さん。恋人とここで落ち合う予定なのだが、それまでにまだ数日ある。
ハンサムなガスパールは当然他の女の子と出会う。


【コメントー美人の投票箱ー】

「そらそうよ」
と母は即答した。
思いがけない回答に僕は驚いた。

高校時代(92年95年)、土曜の夜はよく夜更かしをした。
翌日が休みなのをいいことに、深夜までテレビを見て過ごした。
当時、スナックのママをやっていた母親が早い時は午前一時くらいに帰宅してきた。
それから二時、三時になるまで二人でお喋りをすることがしばしばあった。
僕が質問を投げかけ、母が返答するのが定例になっていた。
もし、空中浮遊ができたら何をするか?もし、僕が学年最下位になったらどうするか?といった程度の質問を延々と続ける。

その日僕は母親を困惑させようと思い、「世の中は美人の方が得をするか?」という伺いを立ててみた。
こたえて曰く、冒頭の発言となる。
母「どこ行っても得するわぁ」
僕「そりゃ不公平やねえ」
母「そういうもんやけ、しょうがないんよ」
僕「そうなんやねえ」
僕も母と概ね同意見ではあったのだが、親らしからぬ暴言に戸惑った。

映画「夏物語」には、三人の女の子が登場する。
ガスパールは三人それぞれに魅力を感じ、どうしたものか迷う。

ガスパールは夏休みのバカンスに海辺のホテルで一人過ごしている。
恋人レナは数日後に遅れてやってくる予定である。
部屋でギターを弾いたり、海へ出てみたり、退屈のんびりとしている。

砂浜で出会ったマルゴは、カフェで働いていた。
マルゴと仲良くなった彼は、遅れてやってくる恋人のことを打ち明ける。
自分は恋人のことを好きだが、果たして彼女が自分を好きなのかどうか判然としないのだと。
ガスパールとマルゴは音楽の話題で意気投合し、二人でフィールドワークに出かけたりもする。

そんな折、ガスパールはソレーヌというまた別な女の子に出会う。
ソレーヌはやけに積極的で、なんだか肉体関係もやぶさかでない雰囲気にガスパールは幻惑される。

そうこうしていると、恋人のレナがやってくる。
レナは自信過剰の嫌いがあり、鼻っ柱が強い。
ガスパールが自分を好きなのは当然だと思いこんでいる。

三人の女性の間を行ったり来たり。
顎に手をやり、悩めるポーズのガスパールの姿は印象的だ。

こんな他愛もない恋の話を七十代半ばの監督が撮った。
エリック・ロメール監督はフランスのヌーベルバーグ(※)の一員として活躍し、現在もなお恋愛映画を撮り続けている。
他愛もない話ばかりではあるが、驚くほど自然な演技と演出、抜群の構成力で、映画は盤石の面白さである。
他愛なさがとても良いのだ。

「夏物語」の若き男女の恋模様をあれだけ生々しく描けるのは、きっと俳優たちにアドリブ的演技をさせているに違いないと踏んだが、とんでもない、後に知ったところによるとシナリオは全てロメール自身が書き、ほぼそのまま言わせているのだそうだ。
この映画は98年頃にビデオで見たが、あまりに良くて一週間借りている間に二度見てしまった。
よくできた恋愛映画のヤキモキさせられるあの感じは、恥ずかしながら大好きである。

この映画で最も感心したのは女の子三人の顔である。
その性格にまったくピッタリな配役をしてある。
もしかすると、俳優が先に決まっていて、それに合わせてシナリオを書いたのかもしれない。
そういうことを言う彼女はそういう姿、雰囲気で、あんな姿と雰囲気を持っている彼女はあんなことを言う。
果たして「美人」の基準がどこにあるのかは定かではないが、ガスパールの優柔不断の材料の一つとして「美人問題」は間違いなく内在した。
一体どの子が可愛いのか、ガスパールの頭の中はフル稼働したに違いない。

悩めるガスパールは最終的に決断をするのだが、三者三様の女の子を、見ているこっちの方が選んであげたくなってしまった。

彼の決断が、世の中の美人にまた一票入れたことになったかどうかは、この映画を見た人が決めるのが良いと思う。

※ヌーベルバーグについては「大人は判ってくれない」の記事でも触れてます→こちら(07年6月15日の記事です)


コメント (2)

エリック・ロメール監督最新作
『我が至上の愛~アストレとセラドン~』が
正月第二段銀座テアトルシネマほかにて公開します。
「これを最後に引退したい」(2007年7月インタビュー パリにて)と本人が公言している作品です。

ブログ筆者よしだ:

我が至上の愛~アストレとセラドン~ さん
コメントありがとうございます。
絶対に見逃せない作品ですね。
これで新年が楽しみになりました。

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●2007年07月19日 14:44に投稿された記事です。

●ひとつ前の投稿は「「12人の優しい日本人」 ~日本人の可能性~中原俊監督」です。

●次の投稿は「「カリフォルニア・ドールス」~必殺技を持つ女たち~ロバート・アルドリッチ監督」です。

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